事業承継の危機は「親子の沈黙」から始まる|データと心理学で解く、後継者不足の真実と解決策

目次

はじめに:なぜ、経営者の「愛」が、皮肉にも後継者不在を招くのでしょうか?

日本経済の足元を揺るがすと言われる「2025年問題」。

2025年問題とは、団塊の世代(1947〜49年生まれ)がすべて75歳以上の後期高齢者になる節目であり、日本の社会保障・医療・労働市場・財政・地域コミュニティに大きなインパクトを与えるとされる問題です。

ニュースでは、日本企業の約3分の1にあたる127万社が後継者不在による廃業の危機にあると報じられています。この数字を聞いて、「うちはまだ大丈夫」と思いつつも、心のどこかで小さな不安を感じている経営者様も多いのではないでしょうか。

多くの専門家は、この原因を「少子化」や「若者の職業観の変化」といった社会全体の変化に求めます。もちろん、それも大きな要因の一つです。けれど、私たちFORTUNA GROUP株式会社が、数多くのファミリービジネスの現場で経営者様と向き合う中で見つけた「真実」は、もっと個人的で、もっと切実な場所にありました。

それは、経営者である親と、後継者である子の間にある、愛情ゆえのすれ違い――「コミュニケーションの壁」です。

本記事では、私が提唱する「Family Building Framework(ファミリービジネスフレームワーク)」の視点から、なぜ合理的な判断ができるはずの優秀な経営者が、こと承継問題に関しては判断を迷ってしまうのか。その心のメカニズムを紐解いていきます。そして、単なる「相続」の手続きだけではない、会社と家族の幸せを永続させるための、温かい解決策をご提案できればと思います。

第1章:データが静かに語りかける「同族承継」の変化と迷い

まずは、少しだけ客観的な数字に目を向けてみましょう。かつて日本企業にとって当たり前だった「親から子へ」というバトンタッチの形が、今、少しずつ、でも確実に変わり始めています。数字の向こう側にある、家族の風景の変化を感じてみてください。

39.4%から33.1%へ:減りゆく「親族内承継」の選択

関連する調査データを見ると、親族内承継(同族承継)の割合は、かつての39.4%から33.1%へと低下しています。

わずか数ポイントの違いに見えるかもしれません。けれど、この数字の変化は、日本の家族のあり方が変わってきていることを如実に物語っています。「親の背中を見て育つ」というかつての暗黙の了解が薄れ、子供たちが家業以外の選択肢――大企業への就職や起業、あるいは海外での挑戦――を、自分の意志で選び取れる時代になったのです。それは喜ばしいことである反面、家業にとっては「待っていれば帰ってくる」という時代が終わったことを意味しています。

「代わりがいない」という重圧と孤独

さらに、少子化という現実が経営者様を悩ませます。

昭和の時代の経営者様は、ご兄弟も多く、お子様も複数いらっしゃることが一般的でした。「長男が難しければ次男、それでもダメなら娘婿」というように、心のどこかで「代わりの誰かがいる」という安心感を持てたものです。

しかし今は、お子様がお一人、あるいはまだいらっしゃらないというケースも珍しくありません。「この子しかいない」という状況は、親御様にとって想像以上のプレッシャーとなります。「無理に継がせて、この子の人生を縛っていいのだろうか」という迷いが、決断をより難しくさせているのです。

第2章:行動経済学で見る「優しすぎる膠着状態」の正体

なぜ、親子という一番身近な関係なのに、一番大切な「会社の未来」について話せないのでしょうか。私はこの現象を「Emotional Deadlock(感情的な行き詰まり)」と呼んでいます。これは決して仲が悪いわけではありません。むしろ、お互いを大切に想うからこそ陥ってしまう、切ない「愛の迷路」なのです。

親心ゆえの「遠慮」というブレーキ

経営者の皆様は、創業時の苦労や、借金の重圧、従業員とその家族を守る責任の重さを、誰よりも痛感されていますよね。

だからこそ、「愛する我が子には、自分と同じ苦労をさせたくない」「本人の好きな道を歩ませてあげたい」という、親としての深い愛情(利他的なバイアス)が働きます。

その結果、「継いでくれ」という言葉を飲み込み、「本人が継ぎたいと言ってくるまで待とう」という、受け身の姿勢を選んでしまうのです。

子の沈黙に隠された「忖度」と不安

一方で、お子様の気持ちはどうでしょうか。

子供というのは、親が思っている以上に親の顔色を見ているものです。「親父はまだ元気だ。引退の話をするなんて失礼じゃないか」「自分から『継ぎたい』なんて言ったら、今の仕事から逃げたと思われるかもしれない。もしかしたら遺産目当てだと誤解されるかもしれない」。

そんな不安や忖度が、お子様の口を重くさせます。親の本心がわからないからこそ、動き出せないのです。

「待つ」ことのリスク:時間は待ってくれません

親は子の自発的な声を待ち、子は親からの正式な言葉を待つ。

このお互いの「優しい待ち」の状態が、1年、5年、10年と続いてしまったらどうなるでしょうか。気づけば親御様はご高齢になり、お子様も別の会社で要職に就いて戻るに戻れない年齢になっている――。これが「沈黙のリスク」の正体です。

会社は黒字で健全なのに、ただ「話し合えなかった」というだけで廃業を選ばざるを得ない。そんな悲しい結末だけは、何としても避けなければなりません。

第3章:村田式「Family Building Framework」で家族を再構築する

では、どうすればこの膠着状態を解きほぐせるのでしょうか。

私たちFORTUNA GROUPでは、ビジネスの論理(数字や効率)と、ファミリーの感情(愛や平等)を統合する「Family Building Framework」という考え方を大切にしています。会社を守ることは、家族を守ること。そのために必要な3つの視点をご紹介します。

「対話」をデザインする:感情の整理整頓

まずは、親子で腹を割って話す場を作ることです。でも、いきなり「継ぐのか継がないのか」と問い詰めてはいけません。

大切なのは、感情的な対立を避け、お互いの人生観や価値観を共有する「対話のデザイン」です。第三者が間に入ることで、これまで言えなかった「親としての弱音」や「子としての不安」を素直に出せるようになります。心の痞えが取れてはじめて、建設的な未来の話ができるようになるのです。

血縁だけにこだわらない「人的資本」の広げ方

「息子に継がせなければ」と思い詰める必要はありません。視野を少し広げてみましょう。

娘さんや、その配偶者、あるいは社内の優秀な若手など、血縁だけにこだわらず、理念を共有できる「人的資本」を広く探すのです。

「誰に継がせるか」ではなく、「誰となら、この会社の理念(想い)を未来へ運んでいけるか」。そう問い直すだけで、選択肢はぐっと広がります。

資産ではなく「想い」のバトンを渡す

事業承継というと、どうしても株や不動産といった「資産」の話になりがちです。

けれど、本当に継承すべきは、創業の精神や、地域への感謝、社員への愛情といった目に見えない「想い(Legacy)」です。この想いのバトンさえしっかり渡せれば、形が変わっても、経営者が変わっても、その会社らしさは失われません。

第4章:幸せな戦略としての「結婚」と、新しいガバナンス

「Family Building Framework」の中で、私が特に可能性を感じているのが「結婚」を活用した未来づくりです。結婚は、単なるプライベートな出来事ではありません。会社と家族に新しい風を吹き込み、組織を強くする素晴らしいきっかけになり得るのです。

「婿養子」がもたらす経営の安定と革新

実は、学術的な研究でも「婿養子が経営する企業は業績が良い」という傾向が出ていることをご存知でしょうか。

これはとても理にかなっています。婿養子様は、外部でキャリアを積んだ優秀な実力者でありながら、結婚によって家族の一員となり、創業家の理念を深く理解してくれる存在だからです。

鹿島建設やスズキなど、長く続く名門企業の多くが、歴史的に婿養子を迎え入れ、その時代ごとの革新を起こしてきました。血のつながりよりも、志のつながりを信じる。それは、とても賢明で温かい選択なのです。

長男至上主義からの卒業と、女性の活躍

また、これからは性別や生まれた順番にこだわる時代ではありません。

女性ならではの視点や柔軟性が、硬直した組織を蘇らせるケースを私はたくさん見てきました。娘さんが社長になり、パートナーがそれを支える。あるいはその逆のパターン。

「男だから」「長男だから」という固定観念を手放し、一人ひとりの個性と能力、そして「想い」に目を向けることで、よりしなやかで強い組織(ガバナンス)が生まれます。

第5章:食卓から始まる後継者育成「Home Education」

後継者育成というと、MBA留学や厳しい修行をイメージされるかもしれません。でも、本当に大切な教育は、もっと身近な場所、毎日の「食卓」にあります。

「Why(なぜやるか)」を語り継ぐ食卓

起業家精神(アントレプレナーシップ)は、教科書で学ぶものではありません。

親御様が、夕食の席で「今日はこんなお客様が喜んでくれたよ」「うちはこういう世の中を作りたくて仕事をしているんだ」と、楽しそうに語る。その姿こそが、お子様の心に「家業への誇り」を育てます。

「Why(なぜ、この仕事をするのか)」という理念の種まきは、家庭でしかできない、最も尊い教育なのです。

「How(やり方)」は変えてもいいという安心感

そしてもう一つ大切なのは、お子様に「変化」を許してあげることです。

「親父と同じやり方をしなきゃいけない」と思うと、子供は縮こまってしまいます。

「理念(Why)さえ守ってくれれば、やり方(How)は時代に合わせて自由に変えていいんだよ」。そう言ってあげることで、後継者は「第二の創業者」として、自分らしい挑戦をする勇気を持てます。その背中を押してあげられるのは、やはり親御様しかいません。

第6章:90歳から逆算する「世代間ライフプランニング」

最後に、少し未来の話をしましょう。

事業承継は、ある日突然起きるイベントではなく、長い時間をかけて紡いでいく物語です。その物語をハッピーエンドにするために、「バックキャスティング思考」を取り入れてみませんか。

理想の未来から「今」をデザインする

経営者の皆様、一度目を閉じて、ご自身が90歳になった時の姿を想像してみてください。

隣には誰が微笑んでいますか?

会社は誰が、どんな表情で経営していますか?

そして、家族みんなで、どんな風に食卓を囲めているでしょうか?

その「一番幸せな光景」から逆算して、80代、70代、そして今の60代で何をすべきかを考えていくのです。

そうすれば、漠然とした不安は「今、やるべきこと」という希望のリストに変わります。「いつか話そう」ではなく、「あの未来のために、今夜話そう」。そんな前向きな力が湧いてくるはずです。

むすびに:対話を取り戻し、100年続く幸せな企業へ

事業承継とは、単なる社長の交代劇ではありません。

それは、家族の絆をもう一度結び直し、企業の魂を次世代へと手渡す、愛に満ちたプロジェクトです。

私たちFORTUNA GROUP株式会社は、結婚相談所の枠を超え、家族経営のコンサルティングファームとして、皆様の「家族」と「経営」の両輪が、幸せに回り続けるためのお手伝いをしています。

経営者と後継者の間にある「遠慮の壁」を取り払い、本音で笑い合える日まで。私たちがそっと寄り添い、伴走させていただきます。

「沈黙」を破る勇気を、今日、ほんの少しだけ出してみませんか。

その一歩が、貴社の次の100年を作る、確かな一歩になると信じています。

無料相談受付中

事業承継・後継者の結婚に関するご相談は、FORTUNA GROUPまでお問い合わせください。
経営者様個別の事情に合わせ、守秘義務を遵守した上で最適なプランをご提案いたします。

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